幸村誠‐99年生まれ、90年代・00年代アフタヌーンを語る-
2022年アドベントカレンダー10日目を書きますちろきしんです。
アフタヌーン特集も、もう4回目。
もうちょっと「アフタヌーン」らしい作家で書くのを予定していた(黒田硫黄とか植芝理一とかね)今回だが、ちょうど今『ONE~輝く季節へ~』をプレイしていて、Key作品はやっぱり自分の原点になる作品だなあと思うと同時に、漫画読みとしての原点は何かと考えたときに思い浮かぶのは幸村誠の作品だった。
24時を既に回っていてちょうど幸村誠のことを考えていたのでもう勢いで書いてしまうことにした。
『ヴィンランド・サガ』は僕が青年漫画を読み始めた最初に読んだ作品だ。
ヴァイキングの動乱の最中に生まれた主人公トルフィンは、父親の復讐のために殺戮の世界に身を投じる。ところが、父の仇の死をきっかけに自身を見つめなおしたトルフィンは、自分がそれまでの過程でどんなに多くの人を殺してきたか、この社会にはどんなに多くの生きられない人がいるかに気づく。そして、ヴィンランド(アメリカ大陸)に移住して新しい共同体を作ることを目指すようになる。そんな話だ。
トルフィンが復讐のために戦場に身を置いていた少年時代編の無常な世界で力強く生きるキャラクターの人格にも衝撃を受けたが、クソみたいな社会で生きていけない人を集めて新しい共同体を作るというトルフィンの思想には僕は非常に大きな影響を受けた(僕は大学でサークルを辞めた人を集める「サークル退会者の会」や留年して卒業に不安がある人を集める「そろそろ卒業を目指す会」などを作ったりした。)。
「酷い社会でどうやっても生きていけない人」をどうやったら助けられるのかという発想は幸村誠の根本にあるのだが、それが最もよく表れている話が『プラネテス』(掲載誌モーニングだけど……)にある。僕は幸村誠の漫画の中だとこの話に最も思い入れがある。
スペースデブリ回収船の船長、フィーには、大好きだった叔父がいた。
「ちゃんとした大人になれない人はなれない人は
どうしたらいいんだろう」
叔父さんのことを思い返すたびにフィーはそう考えずにはいられない。
叔父さんは街の生活に馴染めず、森で暮らしていた。姉(フィーの母)に斡旋された仕事にも行かず、人と交わらず、森に建てた小屋でバイオリンを弾いて暮らしている。
そんなある日少女の失踪事件が起きた。
無職、住所不定、黒人。常日頃から叔父さんを気味悪がっていた街の人は叔父さんに疑いの目を向ける。警察に連行され、犯人同然の扱いを受ける叔父さん。
世界に絶望した叔父さん。
最後には小屋まで燃やされ、世界への恨みを抱えて、叔父さんは森に姿を消す。
「おいちゃんはぬれ衣だった」
「行方不明の女の子はただの家出で」
「川のむこうの歩道でうずくまっているのを発見された」
「おいちゃんは森に消えたまま 二度と姿を現さなかった」
フィーは問う。
「おいちゃんはどこへ行ったんだろう?」
「このクソみたいな社会についに馴染めなかったひとは」
「どこへ行けばいい?」
その問いの答えはフィーも見つけられないでいる。
僕もそれをずっと探しているような気がする。